<前奏>

誰かが浮かんでいる水面(みなも)から

命を叫ぶ聲を聞いた

泥塗れでひとり泣いている

折れた傘を抱えて

なくしたものはまた

僕の中

泳ぎはじめた

「もう終わりだね」ってまた

君はまだ

そこにいるのに

腐らない果実だけ

この夜明け

一枚の絵に

さかなは深く落ちる

ひびわれた

硝子の海へ

<間奏>

食卓の上に橫たわるのは

息のない僕らの脫殻(ぬけがら)

悲しみを誰が食べてしまえる？

吐き出すことしかできないのに

<器樂>

最後の息はまだ

肺の中

もう水浸し

さよなら愛しい人

身體(からだ)の糸

ほどけないから

かたちのないものを

抱きしめて

安い優(yōu)しさで

切れた電線だらけ

価値のない

意味のない聲

それでも花は咲く

うなだれた

頭の中で

話したいことは何？

海の底で

おやすみ

<器樂>