むかしむかし、ある山里に、一人暮らしのおじいさんがいました。
　この山里では今年も豊作で、秋祭りでにぎわっていましたが、誰もおじいさんをさそってくれる者はおりません。

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　おじいさんは祭りの踴りの輪にも入らず、遠(yuǎn)くから見ているだけでした。
　おじいさんのおかみさんは病気で早くになくなって、一人息子も二年前に病気で死んでいました。

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　おじいさんは毎日、おかみさんと息子の小さなお墓に、お參りする事だけが楽しみでした。
「かかや、息子や、早くお迎えに來てけろや。極楽(ごくらく→天國)さ、連れてってけろや」
　そう言って、いつまでもいつまでも、お墓の前で手を合わせているのでした。

　やがてこの山里にも冬が來て、おじいさんの小さな家は、すっぽりと深い雪に埋もれてしまいました。

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　冬の間中、おじいさんはお墓參りにも出かけられず、じっと家の中に閉じこもっています。

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　正月が來ても、もちを買うお金もありません。
　ただ冬が過ぎるのを、待っているだけでした。

　ある晴れた日、さみしさに耐えられなくなって、おじいさんは雪に埋まりながら、おかみさんと息子に會いに出かけました。

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　お墓は、すっかり雪に埋まっています。

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　おじいさんは、そのお墓の雪を手で払いのけると。

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「さぶかったべえ。おらのこさえた甘酒だ。これ飲んで溫まってけろ」
　おじいさんは甘酒を供えて、お墓の前で長い事、話しかけていました。

　帰る頃には、もう日も暮れていました。

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　暗い夜道を歩くおじいさんの耳に、子どもたちの聲が聞こえてきます。
「鬼は～、外！　福は～、內(nèi)！」
「鬼は～、外！　福は～、內(nèi)！」
　おじいさんは足を止めて、辺りを見回しました。
　どの家にも明かりがともって、楽しそうな聲がします。
「ほう、今夜は節(jié)分(せつぶん)じゃったか」
　おじいさんは、息子が元?dú)荬坤盲宽暏喂?jié)分を思い出しました。

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　鬼の面をかぶったおじいさんに、息子が豆を投げつけます。
　息子に投げつけられた豆の痛さも、今では楽しい思い出です。

　おじいさんは家に帰ると、押し入れの中から古いつづらを出しました。

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「おお、あったぞ」

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「むかし、息子とまいた節(jié)分の豆じゃあ。ああそれに、これは息子がわしに作ってくれた鬼の面じゃ」
　思い出の面をつけたじいさんは、ある事を思いつきました。

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「おっかあも、可愛い息子も、もういねえ。ましてや、福の神なんざにゃ、とっくに見放されておる」
　こう思ったおじいさんは、鬼の面をかぶって豆をまき始めました。
「鬼は～內(nèi)、福は～外。鬼は～內(nèi)、福は～外」

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　おじいさんは、わざとアベコベに叫んで豆をまきました。
「鬼は～內(nèi)、福は～外」

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　もう、まく豆がなくなって、ヘタヘタと座り込んでしまいました。
　その時、おじいさんの家に誰かがやって來ました。

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「おばんでーす。おばんです」
「誰だ？　おらの家に、何か用だか？」
　おじいさんは、戸を開けてビックリ。
「わあーーっ！」

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　そこにいたのは、赤鬼と青鬼でした。
「いやー、どこさ行っても、『鬼は～外、鬼は～外』って、嫌われてばかりでのう。
　それなのに、お前の家では、『鬼は～內(nèi)』って、呼んでくれたでな」
　おじいさんは震えながら、やっとの事で言いました。
「す、すると、おめえさんたちは節(jié)分の鬼？」

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「んだ、んだ。こんなうれしい事はねえ。まんずあたらしてけろ」
と、ズカズカと家に入り込んで來ました。
「ま、待ってろや。今、たきぎを持って來るだに」
　この家に客が來たなんて、何年ぶりの事でしょう。

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　たとえ赤鬼と青鬼でも、おじいさんにはうれしい客人でした。
　赤鬼と青鬼とおじいさんが、いろりにあたっていると、またまた人、いえ、鬼が訪ねて來ました。

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「おばんでーす。おばんです」
「『鬼は～內(nèi)』ってよばった家は、ここだかの？」
「おーっ、ここだ、ここだ」
「さむさむ。まずは、あたらしてもらうべえ」
　ぞろぞろ、ぞろぞろ、それからも大勢の鬼たちが入って來ました。

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　何と節(jié)分の豆に追われた鬼がみんな、おじいさんの家に集まって來たのです。
「何にもないけんど、うんと溫まってけろや」
「うん、あったけえ、あったけえ」
　おじいさんは、いろりにまきをドンドンくべました。
　十分に溫まった鬼たちは、おじいさんに言いました。
「何かお禮をしたいが、欲しい物はないか？」
「いやいや、何もいらねえだ。あんたらに喜んでもらえただけで、おら、うれしいだあ」
「それじゃあ、おらたちの気がすまねえ。どうか、望みをいうてくれ」
「そうかい。じゃあ、溫かい甘酒でもあれば、みんなで飲めるがのう」

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「おお、引き受けたぞ」
「待ってろや」

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　鬼たちは、あっという間に出て行ってしまいましたが、
「待たせたのう」

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　しばらくすると、甘酒やら、ごちそうやら、そのうえお金まで山ほどかかえて、鬼たちが帰って來ました。
　たちまち、大宴會の始まりです。

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「ほれ、じいさん。いっペえ飲んでくれや」
　おじいさんも、すっかりご機(jī)嫌です。
　こんな楽しい夜は、おかみさんや息子をなくして以來、始めてです。
　鬼たちとおじいさんは、一緒になって大聲で歌いました。

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?やんれ、ほんれ、今夜はほんに節(jié)分か。
?はずれ者にも、福がある。
?やんれ、やんれさ。
?はずれ者にも、春が來る。

　大宴會は盛り上がって、歌えや踴れやの大騒ぎ。
　おじいさんも鬼の面をつけて、踴り出しました。

?やんれ、やれ、今夜は節(jié)分。
?鬼は～內(nèi)。
?こいつは春から、鬼は內(nèi)～っ。

　鬼たちは、おじいさんのおかげで、楽しい節(jié)分を過ごす事が出來ました。
　朝になると鬼たちは、

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　また來年も來るからと上機(jī)嫌で帰って行きました。

　おじいさんは鬼たちが置いていったお金で、おかみさんと息子のお墓を立派な物に直すと、手を合わせながら言いました。

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「おら、もう少し長生きする事にしただ。
　來年の節(jié)分にも、鬼たちを呼ばねばならねえでなあ。
　鬼たちに、そう約束しただでなあ」

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　おじいさんはそう言うと、晴れ晴れした顔で家に帰って行きました。

おしまい