變形金剛微型傳說A紅人機戀P站同人文
ホットロッドと言い爭うのは、何もこれが始めてではない。
いや、スタースクリームの諍いの相手と言えば、ホットロッドが群を抜いて多い。生粋のサイバトロンとして生きてきたこの若者にとって、サイバトロンにいながらデストロンであることを捨てられないスタースクリームは異分子でしかないのだろう。それでいてこの若者は、スタースクリームを無視することもできないでいるのだ。今もそうだった。
「っ、じゃあ勝手にしろよ!!」
いつもと同じ捨て臺詞を吐いてホットロッドが出ていくのを、スタースクリームは表面上は冷淡な目で見送った。
が、腹の中の思惑は別である。
努めて緩慢に排気して熱を逃がしたが、指のスプリングが軋みを訴える。壁に拳を叩きつけようとしたが、遠くからこちらを伺うマイクロンたちに気付いて堪えた。
――あれでも隠れているつもりなのか。
マイクロンたちは機材の合間から一様に顔を覗かせ、シャトラーにいたっては體半分がここからでも丸見えだった。和むよりも先に呆れてしまい、スタースクリームはその場に座り込んだ。噴き出せなかった苛立ちがポンプの間を行き來する。マイクロンたちに八つ當(dāng)たりすることは避けたかったので、彼らが近寄ってこないことには安心した。
……勝手にしろだと? ホットロッドの言葉が再生される。
勝手に動けないのを分かっていて、よく言ったものだ。心の中で唾棄すると、連動して體のどこかが軋んだ。右膝のジョイント部だろうか。別に整備不良というほどでもないし、あの軍醫(yī)の世話になるのも面白くないので、スタースクリームはそのエラーを?qū)澫笸鈷Qいに放り込む。
スタースクリームは異分子だ。ホットロッドに言われるまでもない。デバスターもデストロンからサイバトロンへ寢返った男だが、あれにはそもそもサイバトロンもデストロンも関係がない。自分の信念のために動き、それに従って所屬を自分で選ぶ男だ。コンボイからの信頼も元々厚い。だが、やむにやまれずサイバトロンに寢返った自分はそうではない。監(jiān)視まではされていないが、常に警戒されている。當(dāng)たり前だ。當(dāng)たり前だと分かっているのだが、気に食わない。ラチェットやグラップが目を光らせているのを、スタースクリームが気付かない訳がないというのに。
「……クソッ?。 ?/p>
自分で思っていたよりも大きな聲になった。マイクロンたちが一瞬驚き、それから顔を示し合わせて急いで格納庫を出て行く。走り去っていく彼らを止める気も起きなかったが、苛立ちの後には虛脫感が訪れて、ひどく――滅入った。
ホットロッドが「かっか」して部屋に入ってきたので、ジェットファイヤーはマスクの下で溜め息を吐いた。この若い戦士が怒る理由など土臺知れている。原因を聞いたところで、最近はいつも一緒だ。パターンが少ない、と心の中でこっそり減點する。
だからジェットファイヤーは面倒臭くて聞かないことにしているのだが、彼の足元でモニターと睨めっこしていた生真面目な人間の少女はそうではなかったらしい。ラチェットが試しにと用意したプログラムを鮮やかにハッキングしていた指を止めて、首を傾げる。
「どうしたの? ホットロッド」
流石にアレクサに當(dāng)たり散らす気にはなれなかったらしい、ホットロッドは怒りを上手く脫力させて、鼻を掻く仕草をした。子どもたちから學(xué)んだジェスチャーなのだろう。
「いや……あのな、スタースクリームがさ……」
やっぱりな。案の定、出てきた原因は予想通りの名前だったので、ジェットファイヤーはもう一度、今度は相手に伝わるよう大きな溜め息を吐いてみせた。
「お前らも相変わらず飽きないなぁ……もう放っておけばいいじゃねぇか」
「いや、そういう訳にもいかないでしょう副司令」
呆れて言ってみせたが、ホットロッドはムッとして言葉を返してきた。いやいや、分からんヤツだな。ジェットファイヤーはおどけながらも、內(nèi)心で叱ってみせる。ほら見ろ、アレクサの顔が曇っちまったじゃないか。
この少女は、どうもあのデストロンの裏切り者が気になってしかたがないらしい。最初それを好奇心か同情によるものかと思っていたのだが、どうやら違うようで、それは一言で言ってしまえば「信頼」に近いもののようだった。持ち前の正義感と真摯さで彼女はスタースクリームのことを気にかけてやまない。マイクロンたちがあんなに懐き、マイクロンたちにあんなに優(yōu)しいトランスフォーマーなら、きっとサイバトロンのみんなとだって分かり合えるはずよ――彼女の言い分はこうだ。その一見論理的だがその実ひどく感情的で稚拙な言葉は、ジェットファイヤーにはいささか訝しく聞こえないでもなかった。彼女がまだ子どもだからだろうか。それとも、未熟とはいえ女性體だからだろうか。ジェットファイヤーの理解はおよばないが、とにかくアレクサは「スタースクリームびいき」だった。
ホットロッドもアレクサの顔の変化に気付いたのか、慌てて言葉を継ぎ足す。
「ああ、いや、別にあいつがなんかしたとかじゃないんだ、たださ」
その後しどろもどろに継ぎ足された理由があまりにも子供染みていたため、やはりジェットファイヤーは呆れざるを得なかった。アレクサも安堵の息を吐いて苦笑する。
「ホットロッド、スタースクリームにはそうちゃんと言わなきゃ。伝わらなかったんじゃないの?」
「いやだって、言ってもどうせ聞かないだろうと思って……」
照れ隠しなのか、ゴニョゴニョとそう言い訳するホットロッドを見て、なんだこいつもスタースクリームびいきだ、とジェットファイヤーはやや冷淡に分析する。もちろんホットロッド本人は自覚していないのだろうが。
ゴリゴリと頭を掻いて――おや、自分もジェスチャーが大げさになってきたな、とジェットファイヤーは思いながら、場をまとめようと言葉を発し、
「まぁ、お前もあんまり――」
そこまで言ったところで、また別の來訪者が現(xiàn)れた。咄嗟に相手を確認しようと視覚センサーを入口へ向けたが、トランスフォーマーの規(guī)格サイズの空間には何も見當(dāng)たらない。
「スタースクリームのマイクロンたちじゃないか」
ホットロッドがそう言ったので、やっと気付いて視覚センサーの高さを下げた。なるほど、スタースクリームの後ろに引っ付いているマイクロンたちだ。
その內(nèi)の一體が、アレクサの姿を見付けてピピピと忙しく聲を出す。
「なぁに、グリッド? わたしに用があるの?」
アレクサはきちんとマイクロンたちを単體で認識しているらしい。ジェットファイヤーがそのことに何やら気を取られている間に、マイクロンたちはアレクサを取り囲み、前觸れもなくひょいと彼女を擔(dān)ぎ上げた。
「な、何??? なんなの?。??」
「んぁ?」
「え、あ――えぇ? 何してんだお前ら!?」
アレクサが困惑と驚きの聲を上げ、ホットロッドが靜止の手を伸ばそうとしたのすら待たずに、マイクロンたちはアレクサごと、あっと言う間に出ていってしまった。
瞬く間にアレクサを誘拐されてしまい、取り殘されたジェットファイヤーとホットロッドはぽかんとするしかない。
「な……なんだ、アレ……」
「……取りあえず、オレたちはまったく眼中外で、挨拶すら必要ないって思われていることは分かったな」
「いやそういうことじゃなくてですね……」
ホットロッドが呆気に取られたままボヤくが、しかしそういうことだろうに。あのマイクロンたちがアレクサに危害を加えるとは考えづらい。ということは、彼らなりにアレクサを必要としていて、なぜ必要としているのかと考えれば、もちろん彼らの「保護者」であるスタースクリーム関連に違いないのだ。
「馬鹿らし……」
ホットロッドの聴覚センサーが感知しない程度に、ボヤく。
「見にいかなくて平気ですかね……?」
「いらんだろ」
心配げにソワソワし始めたホットロッドに、肩を竦める。
「あーあ、まったく。ありゃ多分お前のせいだ」
「え?。俊·?、なんでオレのせいなんですか!?」
「いんや、絶対お前のせいだ。おいどうしてくれんだコラー、お前のせいでオレの話し相手がいなくなっちゃったじゃんかよー」
「ええー!?」
置いていかれたモニターの中で、ラチェットのプログラムが時間切れの通知音を上げた。
出ていったと思ったマイクロンたちが一人増えて帰ってきたので、スタースクリームはアイセンサーを弱く瞬かせた。
――いや違う、あれは……アレクサだ。
アレクサがマイクロンたちに擔(dān)がれているのだ。少女はおっかなびっくりした顔で運ばれてきている。いつも胸を張って気の強い少女のそういう顔を見るのは初めてで、スタースクリームも伝染したように呆気に取られる。
格納庫の床に座ったままだったスタースクリームの元へ走り寄ってきたマイクロンたちは一斉に並び、そして彼の前にアレクサを立たせた。
沈黙が続く。
「……」
「…………」
「………………何の用だ、アレクサ」
微妙な靜寂に耐え切れず口を切ってしまったのは、スタースクリームが先立った。やっと我に返ったのか、アレクサははっとして首を振る。
「ち、違うわ、グリッドやジェッターたちが……??!」
そこでピピピとグリッドが何かを言った。手を振り、首を傾げ、アレクサに何事かを訴え、それからスタースクリームに向かって聲を発する。スタースクリームにはグリッドたちの言葉は分からないが、彼女たち人間の子どもはマイクロンの言葉を感覚的に理解できるらしい。
「何を言っているんだ?」
いつも通り通訳を頼んだものの、アレクサはグリッドの話を聞き終わった途端になぜだか顔を俯かせてしまった。スタースクリームは自分が藪をつついたことを直感で理解し、聞いたことを少しばかり後悔した。スパークの辺りがむず癢くなる。
また一頻りお互いに黙り込んだ後、今度はアレクサが先に顔を上げた。その頬にわずかに血が上っているのを見付けてしまい、歴戦の戦士は心の中でみっともなくそわつくしかない。
常は明朗に回る彼女の舌が、珍しくもつれた言葉を吐き出す。
「あの、あのね……グリッドはね、スタースクリーム、元気、出た? ……って」
「……はぁ?」
一度では理解できずに、そんな間の抜けた聲を出してしまった。アレクサがキッと睨み返してきたが、その顔は赤味を増すばかりだ。
「スタースクリームが落ち込んでた、元気ないって、グリッドは言ってるの! それで、あの、わたしを連れてきた、って……! スタースクリーム……あの、えっと……わたしがいると、元気出る……の……?」
勢い良く吐き出された言葉は、しかし結(jié)局最後は消え入りそうになっていた。彼女の言葉を理解しようと聴覚を高感度にしていたスタースクリームだったが、あやうく聞き捨ててしまいそうになり、慌てて後から思考を追いかけさせ――それから天を仰ぎたくなった。
マッハが不安そうな聲を出す。ジェッターとシャトラーが顔を見合わせる。それを見て、スタースクリームもやっと観念した。観念せざるを得なかった。
「ああ……元気になった……。ありがとう、お前たち」
実際、もう苛立ちも虛脫感もどこかへ行ってしまっていた。極度に唖然とする事態(tài)に遭遇すると、他の感情は吹き飛んでしまうらしい。マイクロンたちが喜びの聲を上げる。彼らが自分のことを心配して健気な気遣いをしてくれたのは、嫌ではなかった。
しかし、彼らの突拍子の行動の後始末をしないといけないのは、スタースクリームなのだ。そのことを、少しばかり恨めしく思わないでもない。
アレクサが気不味そうに作り笑いをした。下手に言葉を発して、また藪蛇を出したくなかったので、彼女の前に黙って手を差し出す。アレクサは躊躇せず、その手に身を委ねた。
「スタースクリーム、なんで元気がなかったの……?」
スタースクリームは彼女がわざと話を逸らしてくれたことに胸を撫で下ろした。ただそれを表に出すのは気恥ずかしくて、返答はぶっきらぼうなものとなった。
「別に……何もない」
「うそ。ホットロッドと喧嘩したんでしょう?」
知ってるんだから、といつもの調(diào)子を取り戻した彼女が茶目っ気を出して言う。スタースクリームの手のひらの上に座り、無造作に足を伸ばした。それから少し眉を顰めて、叱るような聲を出す。
「ねぇ、今朝マイクロンたちを探しに行った時、サンドストームに會って足を撃たれたって、本當(dāng)?」
そんなところをホットロッドに見られていたのか。思わず気色ばんで否定しようとすると、アレクサは苦笑して手を振った。
「違うの、あのね、ホットロッドはあなたが勝手にサンドストームと戦ったことに怒ってるんじゃなくて、ちゃんとラチェットに足を見てもらえって言いたかったんだって」
アレクサの言葉で、スタースクリームは今日何度目かの唖然を味わい、それから溜め息を吐いた。認めたくはなかったが、安堵の溜め息だった。
「…………ふん。ならば、そう言えば良かったのだ」
「スタースクリームも、そういう言い方しないの!」
スタースクリームの減らず口にアレクサが笑う。その屈託のない笑顔を認識回路の分析にかけて、なるほど、マイクロンたちの洞察力は確かなものだと感服した。自分はどうやら彼女が笑うのは嫌いではないし、彼女がいると居場所を得たような気持ちになるらしい。彼はその點については素直に認めた。若干お節(jié)介じみたところもある少女だが、それはこの自分を心配してのことだ。彼女は異分子であるスタースクリームを、ありのまま、サイバトロンやデストロンという垣根を越えて受け入れてくれている。そのことに思い至ると、目映い心地がした。
「わたしラチェットに、彼が作ったプログラムの報告をしにいかないといけないの。スタースクリームも行こう?」
ほら、立って立って、とジェスチャーをしながら、彼女はスタースクリームを急かす。
「あ、でも足――ラチェットを連れてきた方がいい?」
「たいしたことはない。ホットロッドが大袈裟なんだ。歩けない訳じゃない」
あの醫(yī)者に診てもらうのは癪だったが、アレクサと一緒ならば多少の意地は折り曲げてもいいという気持ちになっていたので、スタースクリームは立ち上がった。
足元でマイクロンたちがパタパタと走り回り、何やらまた嬉しそうな聲を出す。アレクサがまたにわかに赤くなったが、何も気付かない振りをした。ここにアレクサがいなければ、それが彼らに理解できるかどうかは別として、きっとこう言っていただろう。
マイクロンたちよ、お前たちの気遣いには感謝するが――どうかこれ以上、わたしが飛んで逃げたくなるようなことを言わないでくれ、と。