おばあさんと子ギツネ
メガネうりの、おばあさんがいました。おばあさんは、いつも、道端に腰をおろし、たくさんのメガネを、並べて売っていました。そして、村から村へと、売りあるいていました。ある時(shí)、メガネうりのおばあさんは、三日村という村にさしかかりました。三日村は、物売りが三日もいたことのないという村でした。なぜなら、そこの村人は、たいへんなけちんぼうだったので、物売りがやって來ても、ちっとも売れないのでした。
おばあさんは、三日村の道端に腰をろして、いつものように、メガネを並べていました。ところが、いっこうに売れません。道を通る村人は、おばあさんのことなんか、知らん顔でいってしまいます。でも、おばあさんは、そんなに欲深い人ではありません。
ま、明日にゃ、売れるだろうて。
と、のん気なことを、言っていました。
けれども、次の日になっても、ひとつも売れません。売れないどころか、村人は、立ちとまってみようともしません。
メガネは、いらんかのう。なんでも、はっきりと見える、メガネは、いらんかのう。
おばあさんの聲にも、誰ひとり、立ち留まろうとしません。
やっぱり、うわさのとうり、この村にや寄ってみても、無駄だったかのう。
おばあさんは、ひとりごとをいいました。
そうしているうちに、夕方になってしまいました。おばあさんが、そろそろ、メガネをかたづけ始めた時(shí)、ふと、聲がしました。
メガネ、おくれ。
おばあさんは、びっくりして、顔をあげました。すると、目の前には、なんと、子ギツネがいっぴき、立っているではありませんか。銀色の毛をした、太いしっぽをつけた、かわいい子ギツネでした。メガネ、おくれ。
はあ、おまえさんが、かけなさるのかい。
子ギツネが、あまりにかわいいので、おばあさんは、思わずにっこりして、聞きかえました。
そうだよ。おいらがかけるのさ。
子ギツネは、太いしっぽをふりながら答えました。
お母さんに會(huì)うために、かけるのさ。
お母さんに?
おばあさんが、不思議そうな顔をするのを見て、子ギツネは、言いました。
お父さんが、おいらに言ったのさ。お母さんは、お空のお星さまになったって。だけど、おいら、いくら一生懸命見ても、どのお星さまがお母さんなのか、わからないんだ
子ギツネは、かわいい真暗な目を、くるくるさせながら話します。
だから、何でもはっきり見えるメガネをかければ、お母さんに會(huì)えるだろう。ね、メガネおくれ。
そうかい、お母さんにのう。
おばあさんは、子キツネが、とてもかわいそうになりました。子ギツネのお母さんは、死んでしまったのでしょう。
けれども、メガネをかけったて、お母さんに會(huì)えるはずもないことは、おばあさんだって、知っています。
そこで、おばあさんは、言いました。
なあ、おまえさんや、メガネをかければ何でもはっきり見えはする。見えはするが、お星さまはな、遠(yuǎn)い遠(yuǎn)い、それは遠(yuǎn)い所にあるんじゃ。だから、いくらメガネをかけてもお母さんには、會(huì)えないんじゃ。
子ギツネは、頭をこくんとしたけれど、ちょっぴり悲しそうな顔をしました。
だが、ここにいいメガネある。これを特別おまえさんにやろう。でもな、このメガネ、これは決して他の物は、よく見えんのじゃ。けど、これをかけてお星さまを見えた時(shí)、一番光るお星さまが、必ずあるんじゃ。それが、おまえさんの、お母さんのお星さまじゃ。
ふうん。それおくれ。
子ギツネは、うれしそうに、かわいい手を出しました。その手のひらには、どんぐりがみっつ、ちょこんとのっていました。
おばあさんは、そっと、メガネのレンズをぬいて、子ギツネの手のひらのどんぐりと、交換しました。
どうもありがと。さっそく、夜、見てみるよ。
子ギツネは、ぴょこんとおじぎをひとつして、後を向いて走り出しました。
気をつけて帰りなされ。
おばあさんが、そう言った時(shí)、子ギツネは、もう遠(yuǎn)くを走っていました。メガネを大事そうに持ち、太いしっぽを、ぴょこんとさせながら。
おばあさんは、ぽっ、とため息をひとつして、それから、にっこりしました。
そして、メガネをかたづけると、どっこしょ、と、それを背おって、ゆっくりと夕焼けの中へ歩いて行きました。