一つの花（一朵花）

作者：今西　祐行（いまにし　すけゆき）

「一つだけ頂戴。」これが、ゆみ子のはっきり覚えた最初の言葉でした。（“就給我一個?！边@是由美子第一句清楚記住的話語。）

まだ戦爭の激しかった頃のことです。（這還是戰(zhàn)爭激烈之時的事。）

その頃は、お饅頭だの、キャラメルだの、チョコレートだの、そんな物はどこへ行ってもありませんでした。おやつどころではありませんでした。食べる物と言えば、お米の代わりに配給される、お芋や豆やかぼちゃしかありませんでした。（那時，哪里都沒有饅頭啊，奶糖啊，巧克力啊這些東西。不只是點心。說到食物，只有定量供應(yīng)的白薯、豆子和南瓜來代替米飯。）

毎日、敵の飛行機が飛んできて、爆弾を落としていきました。（敵機每天都飛來扔下炸彈。）

町は、次々に焼かれて、灰になっていきました。（城鎮(zhèn)不斷被燒毀，化為了灰燼。）

ゆみ子は、いつもお腹を空かしていたのでしょうか。ご飯の時でも、おやつの時でも、もっともっとと言って、いくらでも欲しがるのでした。（由美子大概總是肚子餓吧。所以吃飯的時候，吃點心的時候，說著再來點再來點，還想要很多。）

すると、ゆみ子のお母さんは、「じゃあね、一つだけよ?！工妊预盲?、自分の分から一つ、ゆみ子に分けてくれるのでした。（于是，由美子的母親說著“那么，就一個哦?！比缓髲淖约旱囊环莓?dāng)中，取出一個分給由美子。）

「一つだけ—。一つだけ—?！工取ⅳ长欷?、お母さんの口癖になってしまいました。ゆみ子は、知らず知らずのうちに、お母さんのこの口癖を覚えてしまったのです。（“就一個。就一個?！睗u漸成為了母親的口頭禪。由美子在不知不覺間，記住了母親的這句口頭禪。）

「なんて可哀想な子でしょうね。一つだけ頂戴と言えば、何でも貰えると思ってるのね?！工ⅳ霑r、お母さんが言いました。（某時，母親說道：“多么可憐的孩子啊。以為說就一個，可以得到任何東西。”）

すると、お父さんが、深い溜息をついて言いました。「この子は、一生、みんな頂戴、山ほど頂戴と言って、両手を出すことを知らずに過ごすかもしれないね。一つだけの芋、一つだけの握り飯、一つだけのかぼちゃの煮付け—。みんな一つだけ。一つだけの喜びさ。いや、喜びなんて、一つだって貰えないかもしれないんだね。一體、大きくなって、どんな子に育つだろう?！梗ㄓ谑?，父親深深嘆息道：“這孩子，說不定這一輩子都不知道伸出雙手說全都給我，給我像山一樣多。就一個白薯，就一個飯團(tuán)，就一個燉南瓜。全部都是就一個。只有一個的快樂。不，快樂什么的，說不定一個都得不到。長大后，到底會成長成怎樣的孩子啊?！保?/span>

そんな時、お父さんは、決まってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いするのでした。（這時，父親都會拼命地把由美子舉高高。）

それから間も無く、あまり丈夫でないゆみ子のお父さんも、戦爭に行かなければならない日がやって來ました。（那之后不久，身體不怎么結(jié)實的由美子的父親，也迎來了不得不上戰(zhàn)場的日子。）

お父さんが戦爭に行く日、ゆみ子は、お母さんに負(fù)ぶわれて、遠(yuǎn)い汽車の駅まで送っていきました。頭には、お母さんの作ってくれた、綿入れの防空頭巾を被って行きました。（父親出征的日子，母親背著由美子，到很遠(yuǎn)的汽車站給父親送行。由美子頭上戴著母親做的棉防空頭巾。）

お母さんの肩に掛かっている鞄には、包帯、お薬、配給の切符、そして、大事なお米で作ったお握りが入っていました。（母親背在肩上的包里放著繃帶、藥、配給票，以及用寶貴的大米做的飯團(tuán)。）

ゆみ子は、お握りが入っているのをちゃあんと知っていましたので、「一つだけ頂戴、おじぎり（注：這里的おにぎり沒有打錯，被說成了おじぎり）、一つだけ頂戴?！工妊预盲?、駅に著くまでにみんな食べてしまいました。お母さんは、戦爭に行くお父さんに、ゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのでしょうか。（由美子知道包里放著飯團(tuán)，所以，說著“就給我一個，就給我一個飯團(tuán)?！钡竭_(dá)車站的時候，全都吃完了。是因為母親不想讓出征的孩子他爸看到由美子哭泣吧。）

駅には、他にも戦爭に行く人があって、人混みの中から、時々萬歳の聲が起こりました。また、別の方からは、絶えず勇ましい軍歌が聞こえてきました。（車站還有其他要出征的人，在人群中，時不時響起了萬歲的聲音。以及，從別處，傳來了不間斷的雄壯的軍歌。）

ゆみ子とお母さんの他に見送りのないお父さんは、プラットホームの端の方で、ゆみ子を抱いて、そんな萬歳や軍歌の聲に合わせて、小さく萬歳をしていたり、歌を歌っていたりしていました。まるで、戦爭になんか行く人ではないかのように。（父親除了由美子和孩子他媽，沒有其他來送行的人了，父親在站臺邊抱起由美子，伴隨著萬歲和軍歌聲，也做著小小的萬歲，唱著歌什么的。就好像并不是要上戰(zhàn)場的人。）

ところが、いよいよ汽車が入ってくるという時になって、またゆみ子の「一つだけ頂戴?！工激蓼盲郡韦扦埂＃ㄈ欢?，到了汽車終于進(jìn)站之時，由美子又開始了：“就給我一個?！保?/span>

「みんなお遣りよ、お母さん。お握りを—。」お父さんが言いました。（父親說道：“孩子他媽，把飯團(tuán)全都給她吧?！保?/span>

「ええ、もう食べちゃったんですの—。ゆみちゃん、いいわねえ。お父ちゃん、兵隊ちゃんになるんだって。ばんざあいって—。」お母さんは、そう言ってゆみ子をあやしましたが、ゆみ子は、とうとう泣き出してしまいました。（“哎，已經(jīng)都被她吃光了。由美子，聽好了。爸爸要當(dāng)軍人了。來萬歲~”母親這么哄著由美子，然而由美子終究哭了起來。）

「一つだけ。一つだけ?！工妊预盲?。（說著“就一個。就一個。”）

お母さんが、ゆみ子を一生懸命あやしているうちに、お父さんが、ぷいといなくなってしまいました。（母親在拼命哄著由美子的時候，父親一下子不見了。）

お父さんは、プラットホームの端っぽの、ゴミ捨て場のような所に、忘れられたように咲いていたコスモスの花を見つけたのです?；扭皮茙ⅳ盲皮郡袱丹螭问证摔稀⒁惠啢违偿攻猊工位àⅳ辘蓼筏?。（父親在站臺的一端，像是垃圾場一樣的地方，發(fā)現(xiàn)了似乎被遺忘的盛開著的大波斯菊。急急忙忙回來的父親的手中拿著一朵波斯菊。）

「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだよう—?！梗ā坝擅馈：昧?，我就給你一個。就一朵花，要好好珍惜啊?！保?/span>

ゆみ子は、お父さんに花を貰うと、キャッキャッと足をばたつかせて喜びました。（由美子從父親那里得到花后，高興地哇哇叫著，雙腳亂動。）

お父さんは、それを見てにっこり笑うと、何も言わずに、汽車に乗って行ってしまいました。ゆみ子の握っている、一つだけの花を見つめながら—。（父親目睹這一幕后笑了一下，然后無言地乘上汽車離開了。一邊注視著由美子握著的僅有的一朵花。）

それから、十年の年月が過ぎました。（那之后，十年歲月過去了。）

ゆみ子は、お父さんの顔を覚えていません。自分にお父さんがあったことも、或いは知らないのかもしれません。（由美子不記得父親的臉。又或許不知道自己有過父親。）

でも、今、ゆみ子のとんとんぶきの小さな家は、コスモスの花でいっぱいに包まれています。（但是，如今，由美子的木板屋頂?shù)男∥荼缓芏嗖ㄋ咕瞻鼑＃?/span>

そこから、ミシンの音が、絶えず速くなったり遅くなったり、まるで、何かお話をしているかのように、聞こえてきます。それは、あのお母さんでしょうか。（然后，縫紉機的聲音不間斷地時快時慢地響著，聽起來就好像在說著什么話一樣。這是那位母親吧。）

「母さん、お肉とお魚とどっちがいいの。」と、ゆみ子の高い聲が、コスモスの中から聞こえてきました。（“媽媽，肉和魚，要哪個？”由美子的高聲從波斯菊的花田中傳來了。）

すると、ミシンの音が暫く止みました。（于是，縫紉機的聲音暫時停下了。）

やがて、ミシンの音がまた忙しく始まった時、買い物かごを下げたゆみ子が、スキップをしながら、コスモスのトンネルを潛って出てきました。そして、町の方へ行きました。（過了片刻，縫紉機的聲音又開始忙起來的時候，由美子提著購物籃，連蹦帶跳地穿過波斯菊隧道，然后朝著鎮(zhèn)上走去。）

今日は日曜日、ゆみ子が小さなお母さんになって、お晝を作る日です。（今天是星期日，是由美子化身為小小的母親，做午飯的日子。）

詞匯

負(fù)ぶう（おぶう）：背

綿入れ（わたいれ）：棉襖、棉衣

頭巾（ずきん）：兜帽、頭巾

人混み（ひとごみ）：人群、人多擁擠的地方

絶えず（たえず）：無休止、連續(xù)

あやす：哄、逗

ぷい：表示行為、動作很突然的樣子；（由于不高興突然）扭過臉去、扭過身去、態(tài)度冷漠

ばたつく：拍打聲；（忙得）手忙腳亂；手腳亂動

とんとんぶき：用很薄的木板搭建的簡陋屋頂

作業(yè)

1.讀課文

2.思考課文相關(guān)問題：

3.閱讀詩歌：