空は快晴で、何羽かのとんびがずっと高い場所を得意げに舞っている。私は海沿いの坂道を自転車で下っている。制服のスカ－とが深呼吸をしているみたいにバタバタと膨らむ。

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空も海も噓みたいに青く、土手の緑はどこまでも瑞々しく、水平線をなぞる雲(yún)は生まれたてのように白い。

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誰かが、歩いて坂を登ってくる。

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男の人だ，だぶん。すらりと背が高く、長い髪と白いロングシャツが風になびいている。私はかすかにプレ－キを握り、自転車のスピ－度を少し緩める。しだいに近づいてくる。見知らぬ青年－旅行者かな。山登りみたいなリュックを背負っている.日焼けしたジ－ンズに、大きな歩幅。すこしウェ－ブした長い髪が、海を眺める橫顔を隠している。わたしはまたすこしだけ、ブレ－キを握る手に力を込める。すると、ふいに海風が強くなる。私は息の呑む。

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「きれい........................」

口が勝手に呟いていた。青年の肌は夏から取り離されたように白く、顔の輪郭は鋭くて優(yōu)雅。長い睫毛が、ずっと切り立った頬に柔らかな影を落としている。

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左目の下には、ここにあるべきなんだという完璧さで小さなほくろがある．そういうディテルが、どうしたか間近で見ているような解像度で私の目に飛び込んでくる。距離が縮まっていく。わたしはうつむく。私はの自転車の車輪の音と、青年の足音が混じり合う。鼓動が高まっていく。五十センチの距離で、わたしたちは、いぜん、どこかで―

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「ねえ、君」

柔らかくて低い聲。私は立ち止まり、振り返る。その間の一秒の風景が，やけに眩しい。目の前に、青年が立っている。まっすぐに私の目を見っている。

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「このあたり、廃墟はない？」

「はいきょ？」

予想外の問いに、漢字が追いつかない。ハイキョ？

「扉を探しているんだ?！?/p>

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とびら？ハイキョにある扉ってこと？

自信のない聲が出る。

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「人に住まなくなった集落だったら、あっちの山にありますけどぉ…」

青年はにっこりと微笑む。何て言うか、周囲の空気ごと優(yōu)しく染めるような、とてもきれいな微笑。

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「ありがとう」

青年はくるりと背を向けて、私が指差した山に向かってすたすたと歩いて行く。さっばりと、少しも振り返ることなく。