秒速5センチメートル 2.2
ある時、こんなことがあった。晝休み、トイレに行っていた僕が教室に戻ってくると、明里が黒板の前に一人で立ちつくしていた。黒板には(今思えば実にありふれた嫌がらせとして)相合い傘に僕と明里の名前が書かれていて、クラスメイトたちは遠巻きに僕ひそひそと囁きあい、立ちつくす明里を眺めいている。明里はその他嫌がらせをやめて欲しくて、あるいは落書きを消してしまいたくて黒板の前まで出たのだが、きっと恥ずかしさのあまり途中で働けたく立ってしまったのだ。その姿を見た僕はかっとなって、無言で教室に入り黒板消しをつかんでがむしゃらに落書きにこすりつけ、自分でもわけの分からないまま明里の手を引いて教室を走り出た。背後にクラスメイトの湧き立つような嬌聲が聞こえたけてど、無視して僕たちは走り続けた。自分でも信じられないくらい大膽な行動をしてしまったことと、握った明里の手の柔らかさに眩暈がするような高鳴りを覚えながら、僕は初めてこの世界は怖くない、とかんじていた。この先の人生でどんなに嫌なことがあろうともーこの先もたくさんあるに決まっている、転校や受験、慣れない土地や慣れない人々ー、明里さえいてくててば僕はそれに耐えることができる。戀愛と呼ぶにはまだ幼すぎる感情だったにせよ、僕はその時にははっきりと明里が好きだったし、明里も同じように思っていることをはっきりと感じていた。きつくつないだ手から、走る足取りから、僕はそれをますます確信することがてきた。お互いがいれば僕たちはこの先、何も怖くはないと、強く思った。
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