森の奧のオバケさん
お星さまが、とってもきれいな夜でした。森の中は、しんとしずまりかえって、もの音ひとつしまっせん。
それもそのはず、この森にはもう長い間、野うさぎ一っ匹いないといわれるほどうっそうと茂ってしまったのです。
いいえ本當のところ、生き物が、まったくいないわけではありません。ただ、だれもがみんな彼の存在にきづかなかっただけです。だから彼は森の奧深くたった一人でさみしくくらしていました。
彼とは???それは今夜で百二オになるお化けのことで體一面、オレンジ色の毛がふさふさとはえていました。おとなしそうな黒い目は、とても人なつっこい感じがしました。
【あーあ、誰か話し相手が、ほしい!】
お化けは、何十年もの間、ただそればかりを考えつづけたのです。
ある日のこと、お化けは何十年ぶりに人間の聲をききました。
【いったい、だれだろう】
とお化けは姿を消したまま、聲のする方へ行ってみました。
自分のみにくい姿をみせれば、せっかくきた人がにげてしまいそうで、しんぱいだったからです。そっと耳をすますと、かわいい、小さな女の子の聲がしました。
【ああ、なんて靜かな所かしら。これならたった一人で探検に來たかいがないわ!】
と女の子は不満そうです。
赤い大きなりボンがとっても似合っていました。彼女は小さいな口をとんがらして、さらにつけたしたのです。
【こうなったら、怪物だろうがお化けだろうが、お目にかかりたいものだわ】
それをきいてお化けはどきんとしました。
【本當にそこへ行ってもいいのかい?】
とおそるおそるお化けはいいました。
たださえ低い聲が、まるで地面からわきでてくるように、かすれてきこえました。
【だれよ、そこにいるのは】
【ぼ、ぼく、お化けです】
と彼は思わず姿をあらわしてしまいました。
【お化けですって!】
(きっとあの子はぼくをこわがって泣くか、それともバカにして笑うにきまっている?。?/span>
お化けはそう考えると急に頬がカーッと赤くなり、思わずうつむいてしまいました。
女の子は、お化けの顔をのぞきこんだのです。
【そうよ、そうだわ、あなたは、本當はとってもいいお化けなのよ。そうでなくっちゃ、今ごろ私は食べられっちゃってるにきまっているもの】
まるで一大発見でもしたように得意そうにポンと手をたたきながらいいました。
【ぼくはお化けだよ。こわくないかい】
【ちっとも】
【きみを食べちゃうかもだよ】
【ちがうわ】
そう言って女の子は、ひと息ついてから
【あなたはステキなお化けさんよ。私とはお友達よ】
といいました。
【と.も.だ.ち】
(そうだ、ぼくはもう一人ぼっちじゃない)
お化けは飛び上がってよろこびました。
それからの數(shù)日間は、なんと楽しかったことでしょう。
森の中は、何年ぶりかで春がきたようでした。
毎日毎日、野いちごをとったり、野原を走りまわったり
でも、このごろ女の子は少し変です。
お化けが何か話しかけてもこっくりとうなずくだけで、なにか遠くの方をなつかしがっているようなのです。
【もしかしたら帰りたくなったのでは?】
お化けの最もおそれていたことです。
【あの子が帰ってしまったら、また前のような一人ぼっちになる。
そんなのいやだ!】
彼はなんとかして女の子の興味をひくようにつとめてみました。
が、とうとう、おそれていたひがきました。
女の子の母親が心配してこの森までさがしにきたのです。
お化けは女の子の手をぐっとにぎりました。
しかし、女の子はその手をふりはらって親のもとへ、かけて行きました。
【ママッ】
母と子はしっかりとだき合いました。その様子を、お化けは木の影でそっと見ていました。
【いいんだ。一人ぼっちにはなれてるさ。。?!?/span>
と、お化けはフッとため息をついて、森の奧の方へゆっくりとあるいて行きました。
森の奧のお化けさん。
一人ぼっちのお化けさん。