金の鳥居
むかしむかし、ある村に、まだ年の若い夫婦がいました。
夫婦はとても貧乏でしたが、それはそれは仲の良い夫婦で、けんか一つした事がありません。
そんな夫婦にも、一つだけ悩みがあります。
それは亭主の頭に、毛が一本もないことです。
亭主が男前なだけに、女房にはそれがふびんでなりません。
(うちの人はとても立派な人なのに、毛が一本もなくてはまげひとつゆうてあげられん。ちゃんとまげさえゆえれば、いくらでも仕事があるというのに???)
女房は家計をやりくりして色々な毛生え薬を買ってきましたが、どれも効き目はありません。
(このうえは、神さまにおすがりするほかないわ)
その事を、女房が亭主に相談すると、
「それほど心配してくれるとは、本當(dāng)にありがたい。さっそく二人で、鎮(zhèn)守(ちんじゅ→その土地の守り神)さまにおまいりに行こう」
と、夫婦は村の鎮(zhèn)守さまにおまいりをしました。
亭主が手を合わせて、
「どうか、わたしの頭に毛が生えますように」
と、お願いすれば、そのとなりで女房も、
「どうぞ、うちの人の頭に毛を生やしてくださいませ。生やしてくだされば、そのお禮に金の鳥居(とりい)をさしあげます」
と、一心にお願いをしました。
するとその願いが通じたのか、二人が家に帰ってみると不思議な事に、
「まあ、お前さん。毛が生えておりますよ。頭にちょこんと、三本の黒い毛が生えておりますよ」
「おお、なんとありがたい」
と、毛が少し生えていたのです。
こうして次の日も、また次の日も二人がおまいりしていると、やがて亭主の頭に黒々とした美しい毛が生えそろいました。
おかげで亭主は、立派なちょんまげをゆうことが出來ました。
さて、ここまではよかったのですが、二人は神さまとの約束を思い出してハッとしました。
「願いがかなったのだから、金の鳥居を鎮(zhèn)守さまにおそなえせねばならんな」
「はい。でも貧乏なわたしたちのこと、金の鳥居どころか木の鳥居さえあげられませんよ」
「そうだな、どうすればいいだろう?」
「どうしましょう? 神さまにうそをつくなんて、もったいないわ」
二人は知恵をしぼりにしぼって、考えました。
しばらくして女房が、
「あっ! お前さま、いい事があるわ」
と、亭主に小聲で言いました。
「そうだ。それがいい。そうしよう」
話が決まると夫婦はさっそく木綿針(もめんばり)の太いのを四本持って、鎮(zhèn)守さまにやってきました。
そしてパンパンと柏手(かしわで)を打つと、四本の針を組み合わせて小さな鳥居をこしらえたのです。
木綿針で作った小さな鳥居ですが、これも金の鳥居には違いありません。
この鳥居をお社の前にたてると、二人は手に手をとって踴りました。
?おかげで、まげが、ゆえました。
?お受けくだされ、金鳥居。
?エーホイ、トントン
?エーホイ、トントン
すると、どうでしょう。
鎮(zhèn)守さまのとびらがスーと開いて、中から白いひげを生やした神さまが白い著物姿で現(xiàn)れたのです。
そして夫婦の歌に合わせて、神さまも歌いました。
?仲が良ければ、知恵も出る。
?たしかに受けたぞ、金鳥居。
?エーホイ、トントン
?エーホイ、トントン
こうして神さまと若い夫婦は、夜の明けるまで歌って踴りました。
おしまい