蟲干し
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもとんちの出來る人がいました。
吉四六さんはなかなかの商売上手で色々な物を売り歩きますが、今日の品物はカツオブシです。
けれど一日中売り歩いても、カツオブシは全然売れません。
「ああ、腹が減ったが、まさかカツオブシをガリガリとかじるわけにもいかないしな」
とぼとぼ歩いていると、莊屋(しょうや)さんの家にやって來ました。
家の中をのぞくと、莊屋さんがおいしそうなぼたもちを作っています。
「うまそうな、ぼたもちだ。よし、今日は、あれをいただくとするか」
吉四六さんはゴクンとつばを飲み込むと、家の中へ入って行きました。
「吉四六さん、何の用だね!」
また何かされると思い、莊屋さんは冷たく言いました。
「へえ、いつもお世語(yǔ)になっとります。すみませんが、おぼんを一つお貸し下さりませんか」
そう言っておぼんを借りると、吉四六さんはおぼんにカツオブシを山の様に積み上げました。
莊屋さんは吉四六さんがお土産を持ってあいさつに來たと思い、急に愛想が良くなりました。
「おお、吉四六さん。
まあ上がって、ゆっくり茶でも飲んで行くといい。
そうじゃ、今さっき、ぼたもちを作ったところじゃ。
少し、食べて行かんかね」
「ありがとうございます。それじゃあ、遠(yuǎn)慮(えんりょ)なしに」
吉四六さんは部屋に上がり込むと、ぼたもちをパクパクと口にほおばりました。
「これは、うまいぼたもちですな。さすがは莊屋さん、よい米とあずきを使っている。うん、うまいうまい」
やがて、お腹が一杯になった吉四六さんは、
「すっかり、ごちそうになりました。それではこの辺で、失禮しますよ」
と、言いながら、先ほど盛り上げたカツオブシを、また袋に戻し始めたのです。
お土産を持って來たと思っていた莊屋さんは、あてがはずれてがっかりです。
莊屋さんはまた怖い顔になると、吉四六さんに言いました。
「吉四六さん! お前は何でまた、おぼんにカツオブシをあけたんじゃ!?」
すると吉四六さんは、すました顔で言いました。
「へえ。こうして時(shí)々おぼんにあけて風(fēng)を通さないと、カツオブシと言う奴は蟲がついてしまうんです」
そして空のおぼんを莊屋さんに返すと、さっさとどこかへ行ってしまいました。
おしまい